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大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)47号 判決

加古川市平岡町新在家広畑八〇二番地の一

控訴人

ボルカノ食品工業株式会社

右代表者代表取締役

高橋良輔

右訴訟代理人弁護士

吉川武英

加古川市加古川町木村五-二

被控訴人

加古川税務署長

山下功

右指定代理人

澤田英雄

井上勝比佐

棟朝正美

辻倉幸三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人の昭和四九年一二月一日から昭和五〇年五月三一日まで及び昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの各事業年度の法人税について昭和五二年三月七日付でなした各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

2  被控訴人

主文と同旨の判決。

二  当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決事実の補正

(一)  原判決三枚目裏一行目及び同二行目の「全て」を「すべて」と、同四枚目表一二行目の「五億四六三二万五一一九円」を「五億四六三二万〇五二九円(控訴人の昭和五四年一〇月三一日付準備書面二枚目表四行目に「五億四六三二万五一一九円」とあるのは「五億四六三二万〇五二九円」の誤記と認める。)」と、同裏二行目の「会計」を「事業」と各改め、同四行目の「同日」の次に「前記売掛金総額の差額一億〇四八三万〇六一八円につき訴外会社との間で買掛金の」を付加し、同九行目の「会計」を「事業」と、同一二行目の「昭和五〇年度」を「第八期」と、同五枚目表四行目の「繰越損失の」を「繰越欠損金の損金」と各改め、同末行目の「棄却され」の次に「、そのころ右裁決書が控訴人に送達され」を付加する。

(二)  同五枚目裏三行目の「認める。」の次に「ただし、更正にかかる第九期の納付すべき税額は一二八万一二〇〇円が正しい。」を、同六行目の「もって」の次に「昭和四六年八月九日に」を各付加し、同六枚目裏一行目及び同二行目の「全て」を「すべて」と改め、同七枚目表四行目の「以降の」の次に「法人税の」を、同一〇行目の「算入」の次に「し、第二期及び第三期の欠損金額合計三九七一万七八七一円について損金算入を否認」を各付加する。

(三)  同七枚目裏四行目と同五行目の間に次の一項を挿入する。

「三 被告の右二の4の主張に対する原告の認否

右主張事実中、原告が、被告に提出した第八期及び第九期の各確定申告書において、「当期利益金額」及び「損金に算入した前五年以内の事業年度において生じた欠損金額」をそれぞれ被告主張金額のとおり申告したこと、原告が、被告主張の日に、その主張のように、法人税の確定申告につき青色申告書によることの承認を受けたこと、被告が、原告の第八期及び第九期の各確定申告に対し、被告主張のような損金算入をして本件処分をしたことは認めるが、その余の事実は争う。」

(四)  同七枚目裏八行目の「号証、第一〇」を削除する。

2  控訴人の主張

本件処分の違法事由を再言要約すると次のとおりである。

(一)  控訴人が、その第八期決算当時に帳簿上生じていた第二期から第七期までの訴外会社に対する買掛金額の過誤につき、その是正を図るため値引処理をした一億〇四八三万〇六一八万円のうち、第三期までの分については、これに対応する訴外会社の第四四期ないし第四六期の法人税確定申告においては益金処理され、第四四期においては黒字決算であったため、訴外会社は既にこれについての法人税を納付しているのみならず、控訴人は訴外会社の一〇〇パーセントの子会社であって現実には担税能力を全く有しないため、本件処分によって右値引金額と同額のものが控訴人の益金として再び課税されることになれば、結局のところ訴外会社が控訴人に代ってその税額を納付せざるをえないこととなり、訴外会社にとっては、実質的には帳簿処理の錯誤によって二重課税を受けたのと選ぶ所がないし、このことは実質所得者課税の原則(法人税法一一条)にも違背するものといわなければならない。

(二)  仮に、控訴人が訴外会社との取り決めに従ってその損益が発生しないように帳簿処理をして第一期ないし第三期の法人税確定申告をした場合でも、被控訴人が右取り決めを発見し、そこに課税所得があると判断した場合には必ずやこれを更正したであろうことが容易に推測されるから、控訴人が同一の理由によって帳簿処理の過誤を訂正しようとした際、これを黙過することが徴税上不利益に作用するからといって、右是正措置を許さないばかりか、これを計算の基礎として更正処分に及ぶことは、納税義務者の失態に付け込んだ課税権の発動にほかならず、控訴人としても、税法の理解を欠き、不用意な帳簿処理をしたばかりに予期せざる課税を受けることになるものであり、これは公平な課税権の発動とは到底いい難く、課税上も要請されている信義誠実の原則に違反するものというべきである。

3  被控訴人の主張

およそ法人税の規定が各法人ごとに個別的に適用されるべきことは当然であって、控訴人は、訴外会社とは別個の法人格を有し、独立の会社としての法的性格においてなんら欠けるところはないのであるから、控訴人と訴外会社との間に控訴人主張のような親子会社間の内部的取り決めが存在し、かつ、両社間でそれに沿う帳簿処理がなされていなかったとしても、税法上、無制限にその訂正が許されるというものではなく(これを無制限に許すとすれば、子会社において経常的に発生する欠損につき、親会社がその判断により自社の決算の好、不調に合せて適宜子会社との間で右欠損の帰属を左右し、これによってその利益調整を図るという、税法上容認し難い弊害が予想される。)、その是正のためには、訴外会社において、その申告所得金額が過大であったとして国税通則法二三条一項所定の期間内に更正の請求を行うとともに、控訴人において、右欠損はなかったとして同法一九条所定の修正申告をするのが本来の方法である。

ところで、控訴人と訴外会社は、第二期から第七期までの間右帳簿処理を放置して右の方法を取りえなくなったためか、本件のごとく繰越欠損金の当期損金算入という方法によって是正を図ったものと考えられるが、この方法でも、訴外会社にあっては、控訴人に対する値引額一億円余の損金算入という課税上の利益を得ているのであり、控訴人においても、その第二期及び第三期の各確定申告につき青色申告書提出承認を得ておきさえすれば、控訴人の意図したとおり、課税関係を生じなかったのであるが、たまたま右各期が青色申告でなかったため、法人税法五七条に従い、その繰越欠損金の損金算入が否認され、控訴人に課税を生じたものにすぎない。したがって、本件においては、控訴人主張のような実質課税とか二重課税又は信義則などが問題となる余地はなく、本件処分は適法というべきである。

理由

一  当裁判所も、被控訴人が控訴人に対してなした本件処分は適法というべきであり、したがってこれが違法であるとしてその取消しを求める控訴人の本訴請求は理由がなく、失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決説示理由のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決理由の補正

(一)  原判決八枚目表五行目の末尾に「なお、更正にかかる第九期の納付すべき税額は、国税通則法一一九条一項により、一二八万一二〇〇円となることが明らかである。」を、同一〇行目の「において、」の次に「「当期利益金額」及び」を、同一一行目及び同一二行目の「ついては」の次に「いずれも」を、同裏二行目から同三行目の「算入し、」の次に「第二期及び第三期の欠損金合計三九七一万七八七一円について損金算入を否認し、」を各付加し、同四行目の「は当事者間に争いがなく」を削除し、同六行目の「以降の」の次に「法人税の」を付加し、同七行目の「原告」から同八行目の「みなされる」までを「当事者間に争いがない」と改める。

(二)  同九枚目表一行目の「総合」の次に「し、弁論の全趣旨(当審記録中の控訴人の商業登記簿謄本)を参酌」を付加し、同裏五行目の「原告会社取締役」を「原告会社監査役」と、同一〇枚目裏八行目の「計上している」を「計上するなど、訴外会社と原告との間の前記取り決めには即応していない」と各改め、同一一枚目表七行目の「記載がある」の次に「し、第九期までの確定申告の内容を通覧すると、第八期において一転して売上高が仕入高を上回ったが、第九期に至っても売上高と仕入高が前記覚書のようには一致しているわけではなく、また損益計算書には、債権、債務の主体性を示す受取利息及び支払利息の各勘定科目が見られるほか、形式的には、株主総会において利益金処分案の議決もなされている」を付加し、同一二枚目裏二行目の「移動」を「異動」と改める。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

(一)  控訴人は、本件処分は、実質的には訴外会社に対する二重課税であり、実質所得者課税の原則にも違背する旨主張するが、控訴人と訴外会社とは別個の法人格を有し、それぞれ独立した会計処理を行う独立した納税義務者というべきであることは、前記引用にかかる原判決説示理由のとおりであるから、控訴人がその確定した決算に基づいて提出した確定申告書に訴外会社の損益が混在するはずはないし、控訴人が益金処理した第八期の値引及び第九期の営業経費等については、訴外会社において同額の損金処理がなされているのであって、結局、本件処分は、控訴人が確定申告書に記載した決算内容を前提とし、これに記載されている繰越欠損金のうち法人税法五七条二項所定の要件を欠く事業年度にかかる部分についての損金算入を否認するとともに、それに伴う未納事業税の損金算入をしたことに基づくものであるから、控訴人主張のような二重課税や実質所得者課税の原則との抵触を論ずる余地はないものというべく、このことは、控訴人主張のような控訴人と訴外会社間の税負担に関する事実上の内部関係のいかんによっても左右されるものではない。

したがって、控訴人の右主張は到底これを採用することはできない。

(二)  また控訴人は、本件処分は公平な課税権の発動とは到底いい難く、課税上の信義誠実の原則に違反する旨主張するけれども、控訴人がその第二期から第七期までの各確定申告において欠損金を計上したことが、控訴人主張のごとく訴外会社との関係で会計帳簿上生じた過誤であったものとすれば、税法上は、被控訴人主張のように、訴外会社による更正の請求、及び控訴人による修正申告の方法によってこれを是正することが可能であったはずであり、また確定申告書の記載内容の過誤の是正については、原則として、このような方法によるべきことが要請されていたものというべく(なお、最高裁判所昭和三九年一〇月二二日判決、民集一八巻八号一七六二頁参照)、控訴人がこの方法によらず、前記認定のごとき方法、すなわち、本来、継続企業である法人の課税所得を各事業年度ごとに区切って計算するとの原則の適用によって生じうべき企業資本の維持の阻害、税負担の過重ないし不均衡を軽減、防止することを目的として設けられている繰越欠損金の当期損金算入という方法を取って損益通算したところに基づき確定申告をしたのに対し、被控訴人がこれを計算の基礎として本件処分に及んだからといって、これが公平な課税権の発動にあたらないとは到底いえないし、また、たとえ控訴人が右是正措置によっては課税を生じないと速断していたとしても、合法性の原則によって支配されている租税法律関係において、納税義務者のこのような信頼ないし期待は、もとより保護に値する正当なものとはいい難いから、本件処分が課税上の信義則違反にあたるとは到底いい難く、したがって、控訴人の右主張もまた採用の限りではない。

二  してみれば、右判断と同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によってこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島崎三郎 裁判官 高田政彦 裁判官 篠原勝美)

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